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事業承継の研究レポート 


今回は実際に事業承継を行った事例を提供します。

A社(金属加工業)

1. 事業承継問題が発生した背景

A社は金属加工業を営んでおり、長年大手カメラメーカーへの取引依存度が売上の90%超という状況でした。当初は大手との取引が安定し、A社の業績も安定していました。しかし、スマホの登場によりデジタルカメラ市場が大幅に縮小したことで、大手カメラメーカーは外注先の見直しに着手しました。その結果、大手カメラメーカーからの受注が激減し、最終的には受注がゼロになり、一気に深刻な経営危機に陥りました。

業歴40年の創業社長は、新規取引先の開拓を試みましたが、長年の1社依存により営業機能が弱体化していました。さらに、獲得した新たな取引先が小口で取引が分散したため、生産管理が追いつかず社内は混乱し、結果的に大幅な赤字に転落しました。

さらに、社長は80歳と高齢であり、業績悪化も相まって気力・体力ともに限界に達していました。しかし、社内には高い技術力とモチベーションを持つ従業員が残っており、事業の再構築が可能な状況でした。そのため、事業承継を行い、新たなリーダーシップのもとで経営を立て直す必要がありました。

2. 事業承継の課題

A社の社長には子供がおらず、親族にも後継者がいませんでした。また、社内には技術力の高い職人は多くいましたが、後継者の育成を怠っていたため、経営を担える人材が見当たりませんでした。その結果、残された選択肢は第三者承継、いわゆるM&Aしかない状況でした。

最も懸念されたのは、A社の資産でもある技術者が、受注の急減により会社の行く末に不安を抱き、離反(退職)することでした。しかし、幸いにもカリスマ的な社長のもとで社員は一致団結し、業績回復に向けて懸命に努力を重ねていました。この時点では組織の結束は維持されていましたが、業績回復の目処が立たなければ、組織のモチベーションを維持することが難しくなると考えられ、新たなスポンサー(後継者)を探す時間が限られていました。

3. 事業承継の選択肢と対応策

限られた時間の中で、効率的にスポンサー候補にアプローチするためには、明確なシナジーを生み出せる可能性がある企業を優先的に選定する必要がありました。

A社には確かな技術を持つ従業員がいましたが、営業力と生産管理能力の不足が課題でした。これらの課題を補完できる企業を承継先とすることが、事業継続の鍵となりました。

候補として以下の二つが考えられました。

金属部品商社

  • 商社は営業力があるため、A社は製造に専念できる。

  • ただし、多くの取引先との取引となるため、高度な生産管理が必須となる。

  • 商社には生産管理のノウハウがある企業は少ない。

金属部品メーカー(部品加工部門を内製化したい企業)

  • A社を専属工場として活用するため、営業活動は不要。

  • 取引先が親会社のみとなり、生産品目が限定されるため、生産管理の負担が軽減される。

  • 親会社がメーカーであるため、生産管理のノウハウの提供も期待できる。

この分析の結果、「金属部品メーカー」をスポンサーとする(子会社となる)方が、A社の強みを活かし、事業承継の最適解であると判断し、早急に候補先をリストアップしました。そして、アプローチを開始しました。

4. M&Aの実行と結果

承継候補先を探す中で、大手自動車メーカーと直接取引を持つ優良な鋳物メーカーに着目しました。この鋳物メーカーは、鋳物部品の金属加工を全国の加工工場に外注していましたが、配送コストが膨大になっており、納期圧迫の課題を抱えていました。

この候補先の経営者にアプローチしプレゼンを行ったところ、A社の技術が候補先にとって親和性が高く、さらに地理的に近いことから、短期間でM&Aによる事業承継が成功し、新たな環境のもとでA社の技術を活かした事業再生を達成することができました。

5. 振り返りと改善点

事前のM&A準備の必要性

  • 経営悪化してからのM&Aは、売却条件が不利になる可能性が高い。

  • 長期的な目線で事業構造を改革する準備を怠っていたため、創業者利益を十分に得ることができなかった。

銀行との調整リスク

  • M&A契約直前に、メインバンクの地方銀行が社長の自宅担保を解除しないという問題が発生。

  • 銀行内部の自己査定の都合であり、結果的に旧社長が受け入れる形でM&Aは成立。

  • M&Aの交渉を進める際には、銀行との調整タイミングを慎重に見極める必要がある。

6. まとめ

この事例は、A社の事業自体は優良企業に承継され、技術、雇用、取引先が守られ、さらに親会社による待遇改善や設備投資が行われるなど、事業承継の成功例となりました。しかし、以下の教訓が得られました。

  • 自社の強みと弱みを冷静に分析し、強みを活かし弱みを補える継承先を選ぶことが重要。

  • 赤字転落前にM&Aを進めることで、より良い条件での承継が可能。

  • M&Aに慣れていない金融機関は予想外の行動をとるため、銀行を巻き込むタイミングを慎重に計る。

事業承継は単なる株式の引き継ぎではなく、会社の将来を考える大きな決断です。この事例から得た教訓を活かし、適切な準備と戦略的な実行を行うことが、事業承継の成功の鍵となります。


 
 
 

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